映画『聲の形』レビュー

映画『聲の形』レビュー

★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

2016年公開の映画ですが、動画配信が始まりましたね。同じく山田尚子監督の『リズと青い鳥』が良かったこともあり観てみました。

いじめの陰湿な描写は生々しく演出や作画上の見所はありますが、ラストをキレイにまとめ過ぎていて物語上の破綻を生んでしまっているように感じます。

個々のシーンは評価できるだけに残念ですが、ちょっと辛めの点にしました。

京アニ初の直接映画化

大今良時の漫画を京都アニメーションの山田尚子監督がアニメ化。山田監督は『けいおん!』や『たまこまーけっと』など、女の子が主人公のほんわかした作品の印象がありますが、本作では打って変わって聴覚障害やいじめといった重いテーマを扱っています。

京都アニメーションがTVシリーズを経ないで映画を製作するのは今作が初めてで、そういう意味でも冒険的な作品だったのではないかと思います。

小学生時代

物語は聴覚障害を持った女の子が小学校に転校してくるところから始まります。

この女の子が次第に周りからいじめを受けるようになっていく過程の描写は非常に生々しいです。子供だからというような仮借のない陰湿な描写は、人間が本質的に持つ醜悪さを浮き彫りにするかのようです。

しかし女の子の転校をきっかけに、いじめの対象は首謀者だった将也へと移ります。いじめの対象がいとも簡単に転移する所もリアル。かなり不愉快な気分になることは覚悟しておいたほうがいいでしょう。

しかしいじめをテーマとする以上ここまで描くことは必須と言え、評価できる部分です。また、そこまで人の心を揺さぶることのできる真に迫ったアニメーション表現になっているとも言えます。

高校生時代

時は流れて高校3年生。いじめをする側からされる側へと回って自分が何をしていたのかを理解した将也は、その「清算」の一環として硝子に会う決意をします。

ここからの、かつていじめをしていた者といじめを受けていた者が、障害者と健常者が、あるいはそもそも他人同士が関係を築きあげることができるのか、というのが作品の本題です。

で、この本題の部分ですが、序盤の執拗なまでにリアリスティックないじめの描写に比べるとファンタジーに過ぎるきらいがあり、許容できないほどではないですが強い説得力を持つには至っていない印象です。

硝子がいじめっ子だった将也を好きになるというのも無理を感じますし、諸々あって意識不明になっていた将也がピンピンしているのも夢オチかと思ったら現実だった。何らかの障害を負って立場的に対等になる展開かとも思ったのですが…

ともだちとかウケる

高校生になってかつて将也と一緒に硝子をいじめていた仲間と再会するシーンがあるんですが、そいつらの性格がまるで変わってないという描写も妙にリアルですね。上辺だけは関係が修復され、友達に戻れたかのように見えてまた崩壊するという展開も良い。ここまでは良かった。

いじめの当事者だけでなく、傍観者の厭らしさをキッチリ描いているのも評価できる点だと思います。無自覚やっかい勢(とその理解者)のどうしようもなさがよく出ています。それだけに彼女は最後までそのままでいて欲しかった。

こうしたいかに他人同士が理解し合うのが難しいかということを描いてこそ、将也と硝子のたどり着いた関係性の価値が表現できるわけですが、この映画の最大の欠陥は、ラストでそうしたキャラとまで関係を修復できたような描写をしてしまったことだと思います。

終盤の展開は全体的に強引で白々しくストーリーの一貫性を破壊しているように感じられ、全然カタルシスではないです。こう掌を返されては序盤で感じた胸糞悪さのやり場がないですね。せめてもう少し含みを持たせるべきだったのでは。

その他良かった所

ラストで失望しちゃうのはそれまでが良かった裏返しでもあるんですよね。ということで良かった所もあげておきます。

硝子の母親の描写は非常によかったです。大人として筋を通そうとする凛とした態度と、障害を持つ子の親として感情的になってしまう部分の葛藤が痛々しく胸に迫ります。劇中では最も共感できるキャラでした。

京アニだけに作画は全体的に良いですが、小学生時代の将也と硝子が取っ組み合いをするシーンが凄い。

祖母の葬儀場で硝子姉妹の間に蝶が舞うシーンは非常に象徴的かつ美しいですね。こうした演出手法は山田監督の最新作『リズと青い鳥』で異次元なレベルにまで高められているのでぜひ観て欲しいです。

まとめ

いじめをテーマとする以上避けては通れない、人間の醜悪な部分の描写は執拗なまでにリアリスティックで評価できます。

一方で、その対照として描かれるはずの人間の美しい部分の表現はラストのご都合主義的展開に代表されるような稚拙さがあり、この非対称性がこの映画に不満を感じさせる大きな理由となっています。

無理にいい話に持っていく必要もないわけで、むしろバッドエンドになっていた方が映画として完成度が高かったのではないかと思ってしまいますね。そうすると売れないんだろうけど。

Netflix で見る

こちらもオススメ