映画『夜は短し歩けよ乙女』レビュー

映画『夜は短し歩けよ乙女』レビュー

★★★★★★★☆☆☆ 7/10

劇場で観られなかったんですが、各種動画配信サービスでも配信が開始され、ようやく観られたので感想を。

夜を舞台とした夢とも現ともつかない幻想の世界を見事に映像化しているものの、ストーリーの面白さ的には『四畳半神話大系』には一歩及ばないかも。

湯浅政明 × 森見登美彦 再び

原作は森見登美彦の同名小説。湯浅政明によるアニメ化は『四畳半神話大系』以来ですね。

「四畳半」は湯浅監督がブレイクするキッカケとなった作品で、そのシュールな世界観と独特の演出が絶妙にマッチした名作だっただけに期待が高まります。

もう一つの四畳半

舞台は京都の某大学、後輩の「黒髪の乙女」に片思い中の「先輩」が想いを遂げられるや否やというラブコメが基本路線で、これは「四畳半」まんまですね。実際「四畳半」に出ていたキャラクター達も登場し、もう一つのパラレルワールドの様です。

「四畳半」が自ら一歩を踏み出せず堂々巡りする主人公をタイムループという構造で象徴していたのに対し、この映画では「明けない夜」という舞台装置になっています。実時間であれば1年近い期間の出来事が一夜のうち起きたかのように描かれます。

これは原作には無く映画だけの設定ですが、時間のゆがんだ夜を舞台とした世界は、現実離れした妖怪のようなキャラクターたちのらんちき騒ぎを短い映画の中で効果的に表現するのに一役買っています。その合縁奇縁を巧みにつなげていく構成もうまいですね。さしずめ京大生酔夢譚と言ったところです。

黒髪の乙女は可愛いものの

物語は先輩と黒髪の乙女との2人の視点で進んでいきます。先輩についてはナカメ作戦に代表されるように、可笑しくも哀しい妙にリアルな非モテ系男子大学生像を構築できており、「四畳半」同様の面白さがありますね。

一方で黒髪の乙女については、その酒豪っぷりや天然で真っ直ぐな性格は可愛いものの、どこかリアリティのないふわっとしたキャラで終わっており、一癖も二癖もある登場人物の中ではもう一つキャラ造形が浅いように感じます。

最終的に先輩に好意を寄せる展開もさしたる必然性はなく、ストーリー上のお約束感は否めません。原作ではもう少し描写があるのでここは残念なところ。90分という尺の問題もあるかもしれません。

水を得た湯浅演出

夜の夢幻の世界という題材を得て、アニメーション的には水を得た魚のように躍動します。先斗町を疾走する電車や古本市の神様など、まさに一夜の夢のような世界が、湯浅作品独特のユーモラスな動きとビビッドな色彩、ポップなデザインにより余すところなく表現されています。詭弁踊りの重力を無視した動きが素晴らしい。

クライマックスでの大風のシーンや先輩の内面世界の描写の作画も圧巻で、映画ならではですね。

劇中劇の「偏屈王」のミュージカルのような演出もアニメならではですが、ユーモラスと言えば言えるものの、コメディとしては滑り気味の感はあります。ここは見る人によって評価が分かれそう。ただ作画やキャストの演技はすごくいいので一見の価値ありです。

まとめ

アニメーション的には映画ということもあって湯浅作品の独特の魅力が十二分に発揮されており楽しめます。

ストーリーとしては個々のイベントは面白いものの、肝心の黒髪の乙女と先輩の関係性の発展がもう一つ説得力がないように感じます。どうしても『四畳半神話大系』と比べてしまいますが、話の面白さは「四畳半」に一歩譲りますね。

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