一応プロット的には、恋人を失った悲しみを乗り越え前に進むというよくある話なんですが、映像表現を優先したためか設定や展開に無理がありすぎて物語の説得力を全く失っているように感じます。
湯浅政明監督の前作である『夜明け告げるルーのうた』ほどアニメーションとしての魅力的なシーンが無かったのも辛いところです。次のいい波には乗れることを期待。
ストーリーについて
前半はとりあえずカップルがイチャコラするのを見続けることになります。それでも、人が恋に落ちる納得できる描写がちゃんとあればいいんですが、彼氏がただのイケメン完璧超人だったりして、既にここからヒロインの妄想なんじゃないかという現実感の無さで正直しんどい。なんで人を救いたい人の夢がカフェをやることなんですかね。
また死んだ恋人の幽霊が出てくるのはいいとしても、何故か水を自在に操れる設定は都合よすぎる気がするし(ていうかそれはルーで見た)、ヒロインの言動も完全にサイコパスでただのヤベーやつになっていて、見ていると純粋に引きます。ラストの展開も、いやその映像見せたいだけでしょという感じで流石に無理があるんじゃ。他人には見えないという設定も破ってるし。
そんな訳で本来なら恋をする喜びとか、愛する人を失う悲しみとかで見る人の共感を得るべきところを、取ってつけたような脚本のせいでことごとく失敗しており、最後にヒロインが一歩前に進むというくだりも何の感慨ももたらしません。
おそらく最初に描きたい映像のイメージがあって、それらをつなぎ合わせるためのストーリーをでっち上げたら支離滅裂なサイコホラーになってしまったのではないかと想像するんですが。
映像について
湯浅監督のアニメはその躍動的な映像表現が魅力で、今作でも一応それらが見られはするものの、他作品ほど印象に残るものでは無いように感じました。
日本のアニメでは恋人同士のラブシーンが何故か極端に少ないので、アニメーターとしてそういうのを描きたいと思うのは理解できるような気はします。実際見ていて面白い表現もありますが、まあそれもやっぱりストーリーがあってこそで、作画オタでも延々これだけ見せられるのは辛いのでは。
また「ルー」で特に顕著な音楽と映像のシンクロというか、ドライブ感のある演出も湯浅アニメの魅力ですが、本作ではほとんど見られなかったのも残念です。波もルーで見たしなあ。
まとめ
湯浅監督は『ピンポン』や『DEVILMAN crybaby』など、原作モノのアニメ化では恐ろしいほどの能力を発揮しますが、この「きみ波」にしろ『夜明け告げるルーのうた』にしろ、オリジナル作品は映像はともかくストーリーでは見るべきところが無いというのが正直な感想です。
次回作の『映像研には手を出すな!』は原作付きということで、こちらは期待しています。