映画『ペンギン・ハイウェイ』レビュー

映画『ペンギン・ハイウェイ』レビュー

★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

全体的に悪くはないんですがかと言ってズバ抜けた所もなく、こじんまりとまとまってしまった感じです。何か一点でももっと尖った表現を見たかったと感じてしまいます。

作品について

原作は森見登美彦の同名小説で、日本SF大賞も受賞しています。しかし森見作品もよくアニメ化されますね。

監督の石田祐康は聞かない名前だと思ったら「フミコの告白」の人だったんですね。この学生時代の自主制作作品が話題になった時に私も見た記憶がありますが、この映画では残念ながらそのとき見られたようなキラメキはあまり感じられません。

長編映画を成功させるにはなんと多くのものが必要になることか、という感慨を期せずして抱いてしまいます。

少年とお姉さんの一夏の冒険譚

主人公のアオヤマ君は大変頭が良く勉強がお出来になる小学生で、ある日そのアオヤマ君の町に本来南極に生息しているはずのペンギンが現れます。

同じクラスの仲間たちと不思議なペンギンの謎を研究することになり、さながら少年少女の一夏の冒険を描いたジュブナイルと言ったところですが、そこはそれ森見作品だけあってただのジュブナイルにはなりません。

アオヤマ君は憧れている歯科医院のお姉さんのおっぱいについても研究に余念がなく、そのお姉さんが何やらペンギンと関係がある様子。子供たちとペンギンのKENZENな作品に偽装した巧妙なおっぱいアニメでもあります。

それにしても「四畳半」の羽貫さんといい、森見氏は歯を抜かれる事に対して特別な思い入れでもあるんでしょうか。本作でも乳歯の抜歯シーンがあり、アニメ的にも見所となってはいるんですが、これを見た純粋無垢な少年少女が特殊な嗜好に目覚めてしまわないか心配です。

いまいち盛り上がりに欠ける展開

ただ、お話としては前半のアオヤマ君とお姉さんのコミカルかつ思春期前の男子にそんな的なやり取りの部分が一番面白かったですね。

後半に入って物語の核心に迫って行くわけですが、ストーリー展開のためとは言え特に大人たちの行動に不自然と感じさせる点があって、興を削ぐ格好になっているのは残念です。

またSF的な設定もあるんですが、それついてはごくふんわりとした説明しかなく雰囲気でやり過ごしてる感があり、そこもなんだかモヤモヤしてしまいますね。そこが主眼の作品ではないとは分かってはいるものの、もうちょっとこう何かあるんじゃないの、と言いたくはなってしまいます。

ラストに至る展開も骨格としては王道そのもので、悪く言えば新鮮味がなく、映像含め肉付けに特段工夫があるわけでもないのがそれを目立たせてしまっている印象です。

アニメーション的な見所は少ない

さて小説の映画化ということで、どう映像化するのかがやはりアニメーションとしては一番の注目ポイントになります。

特に本作では、ネタバレになるので詳しくは触れませんがクライマックスでの「海」の中の世界を描くシーンは最大の見せ場だったはずですが、どこかで見たことのあるような表現や、言い方は悪いですが予算が少なくて済みそうな表現があり、期待外れ感は免れ得ないです。

作画が悪いわけではなく全体的なレベルは高いんですが、例えば『夜は短し歩けよ乙女』など同じく森見作品をアニメ化している湯浅政明監督だったらもっとイマジネーション溢れる映像が見られたのでは…などとどうしても考えてしまいますね。

むしろ作画的にはキャラクターのふとした笑顔や、表情の変化などにハッとさせるシーンがあり、日常芝居的な場面で見るべき所が多かったです。まあそういう地味なシーンも大事ではあるんですが、見せ場ではもっと魅せて欲しかった。

まとめ

小学生ながら妙に大人びた主人公のキャラクターの面白さや、歯科医院のお姉さんが見せる隠れたフェチシズムなど、森見作品の味が出ている所もあります。

ただ映像については、レベルは高いものの作品の性質的に期待されるようなイマジネーションやオリジナリティに関しては月並み以上のものは感じられませんでした。

ストーリー的にもつまらないと言うこともないんですが、いま一つ盛り上がらないまま終わってしまったと言う印象です。

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