映画『若おかみは小学生!』レビュー

映画『若おかみは小学生!』レビュー

★★★★★★★☆☆☆ 7/10

高坂希太郎による11年ぶりの監督作品。演出はさすがの出来で、作画的にも見所が多いです。

基本前向きなストーリーですが、設定上重い話にならざるを得ないところもあり、ファミリー映画としてどうバランスをとるのかが難しいところ。その点に関しては多少不満が残るところもあります。

作品について

原作は令丈ヒロ子による児童向け小説シリーズ。両親を亡くした小学生のおっこが、祖母の旅館で若おかみとして奮闘するというストーリーです。幽霊や妖怪の類が見える体質で、彼らに掻き回されたり支えられたりするドタバタ成長物語といったところ。

今年の4月からTVアニメ化もされており、映画公開に合わせる形で無事終了しました。こちらもなかなか面白いくて、15分アニメですが映画では食い足りところも描かれているので、気になる方はぜひ。Amazonプライム・ビデオなどで配信中です。

劇場版の監督はジブリ作品でもアニメーターとして活躍した高坂希太郎。監督としては2011年の『茄子 スーツケースの渡り鳥』以来となります。

細かい演出が光る

アニメーターとして宮崎駿監督の片腕となって活躍した高坂監督ですが、演出力もかなりのモノです。

冒頭の祖母の旅館へ一人で向かう列車内での車窓を使った演出が印象的。全編に渡ってカット割りやキャラクターの細かい動き一つ一つまで気が配られおり、アニメーションを見る醍醐味を味わえます。

作画陣もそれに応え、特に慣れない着物で旅館を手伝うおっこの動きや、若い頃の女将をウリ坊が救うシーンなど相当なクオリティですね。

また、温泉街随一の秋好旅館がイルミネーションなどの人工的な設備に投資しているのに対し、おっこの春の屋は部屋付きの川床から自然が望める作りになっており、そこにひょっこり野生の鹿が現れるといった対比が描かれ、泊まるなら春の屋と思わせる演出も見事。川床でシャンパンを飲むグローリーさんが羨ましすぎる。

グローリーさんといえばこの映画ではTVシリーズよりも鍵となる役割を果たしており、影の主役と言ってもいい扱いです。露天風呂のシーンもやたらと気合が入っていて、家族連れのお父さん対策にも抜かりがないですね。

ストーリーについて

両親を早くに亡くしながら、旅館の手伝いを通じて成長していくおっこの真っ直ぐな姿は健気で胸を打つものがあります。幽霊達が見えるという設定が両親の不在を補完しており、成長に伴って…という最後は必然といえるでしょう。

ただラストの展開については、偶然にしても出来過ぎている上にやや強引というか、そんなに早くに両親の死と折り合いをつける必要があるのか、と感じさせる所があります。

もっともその痛みはしっかりと描かれており、物語の締めとして意図的には理解できるのですが、もう少し別の終わり方があった様に思います。

余談ですがそのラストあたりで、落語の「芝浜」の様なセリフで知っている人をニヤッとさせるシーンがあり、演じる山寺宏一は学生時代に落語研究会だったそうで、狙ってやっているとしたらここもなかなか凝ってますね。

全体的には随所に監督のこだわりが感じられる良作だと思います。