★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10
「鉄コン筋クリート」や「マインド・ゲーム」を手掛けたSTUDIO 4℃がギョーム・“RUN”・ルナールのバンド・デシネをアニメ化。
映像と音楽は素晴らしいですが、ストーリーの方はよくあるダークヒーローの設定を切り貼りしただけで正直成立しておらず、結局チンピラがドンパチやっているだけで終わってしまった印象です。
What is ”MUTAFUKAZ“?
「ムタフカズ」はフランスのバンド・デシネ作家であるギョーム・“RUN”・ルナールの漫画のタイトルで、「マザーファッカーズ」の意の造語ということです。マタフカズじゃなくて良かった。
主人公たちはカワイイ見た目をしていますが人間とは異なる異形の存在で、アメリカのスラム街で迫害を受けながらクソのような毎日を送っている、というなかなかハードな設定。それがある日正体不明の黒服に襲われて、というのが大体の筋です。
またGの恩返しという物語とも言えます。バイオレンスな描写も多いですが、日本のアニメではモザイクがかかることも多いGが大量に登場するので、むしろこっちがムリという人も居るかもしれない。
映像と音楽はいいが…
原作は見たことがないですが原作者も監督としてクレジットされており、原作のテイストをそのまま生かしたであろう絵作りは味があっていいですね。日本の漫画ともアメコミとも違う独特の魅力があります。
その独特のスタイルの絵がそのままヌルヌルと動く作画も素晴らしい。レイアウトなども凝っており(なぜかシネスコだし)、冒頭のギャングから女性が逃げる一連のシーンで既に引き込まれます。
音楽の方もアメリカのスラム街が舞台ということで、HIP HOP系というかそっち系の曲がガンガンと掛かってこれがまたイカス。この辺のセンスも日本のアニメっぽくないというか、さすがおフランスと言ったところでしょうか。
というわけでもしこれがミュージックビデオだったらそれだけで良かったのかも知れませんが、残念ながら映画としてはそうもいきません。
悲しいけどこれ映画なのよね
以下多少ネタバレしますが、主人公は人外の存在と人間との間に出来た子供で、迫害されて育ちますがある日その力に目覚める、というヒーロー物にはよくある設定です。
また敵の組織も人間の憎悪を力の源として地球を支配しようとしているという、思わずプリキュアですか?と突っ込んでしまうダークなのかキッズなのか分からないテンプレな設定。
そんなプリキュア・ノワールな筋書きですが、ありがちな設定で大した理由もなく争いが起き、そんなんでええの?という方法で解決し、ヒロインは都合よく心変わりし、ダークヒーローの成長譚として期待されるような深みのある物語はここにはありません。
ギャングとチンピラとの銃撃戦やお決まりのカーチェイスなど、映像としてはカッコイイいんですが、ストーリーがそう言ったシーンを登場させるためだけの仕掛けにしかなっていないです。映画にとってストーリーは重要な要素だと思いますが、この作品はそれがあまりに稚拙です。
見せたい絵はあるけど語りたい物語は無い、というのは日本のアニメスタジオが満を持して世に送り出したオリジナルアニメーションがコケるケースでよくあるパターンですが、それに近いものを感じます。
最後に一応キャストについて触れておくと、こういう映画で声優を使わないという選択に同意できる部分もありますが、上手くいかなかった作品の方が多い気がします。そしてまたそういう映画が一つ増えたようです。