『メアリと魔女の花』のスタジオポノックによる「ポノック短編劇場」第一弾ということで、3人の監督による短編アニメーションのオムニバスになっています。3作合わせて1時間ほど。
監督は3人ともジブリ作品の主要スタッフを務めた経歴がありますが、本作は監督が脚本も務めるショートムービーとそれぞれの作家性が出やすい企画になっており、スタジオポノックの見本市的な位置付けでしょうか。
以下面白かった順に感想を書いていきます。
「透明人間」
★★★★★★★★☆☆ 8/10
映像的な面白さが抜群で、これを観るためだけでも劇場に足を運ぶ価値があるのではないでしょうか。
透明人間というのも古典的な題材ですが、本作ではさらに「重さ」も無いというアイディアが追加されており、その設定を活かした動きの表現や、画面構成、アクションなど、とにかく見ていて気持ちいい。
どういう仕組みですか、とツッコミたくなる所はあるものの、空気のように姿も見えず重さもない存在というのは現代社会の寓意とも取れます。映像のためだけの設定でなく物語的にも深みを持たせることに成功していますね。ショートムービーとして非常にうまい題材と構成になっていると思います。
パッと見こそ他の2作のようなジブリっぽさはないですが、動きの面白さや画面構成の巧みさなどは実は最も「古き良きジブリ」のスピリッツを体現しているように感じます。
「カニーニとカニーノ」
★★★★★★☆☆☆☆ 6/10
擬人化したカニのフレンズの兄妹が父を探して大冒険するという、いかにもなジブリっぽさを前面に押し出した作品。
「アリエッティ」みたいだなーと思ったら監督がまさに「アリエッティ」の人でした。こういうのが好きなんでしょうかね。
ストーリー的にも演出的にも想像通りと言った所で、でかい魚のシーンなどそれなりに楽しめはするものの、今更こういう作品を再生産する意義はなんだろうかと思わずにはいられません。
一番良かったのは水のCGでしょうか。清流の波の表現が凄い綺麗で、CGもここまで来たかと思わせます。が、実写に近すぎてアニメとなじみづらいという痛し痒しな点も。
あとなぜか擬人化されてないカニのままのカニが登場したんですが、設定が謎すぎて怖い。
「サムライエッグ」
★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10
卵アレルギーの少年のお話。
尺が長ければもう少し掘り下げたり出来てドキュメンタリー的な良さが出たかもしれませんが、こう短いとただの教材アニメのようで、ちょっと劇場でお金を払って見るタイプの作品にはなっていないと思います。
アレルギーを持ったお子さんやその保護者の方は大変だろうとは思いますが、それとこれとはまた別の話なので。
まとめ
スタジオポノックは元ジブリのスタッフが中心となって設立され、どうしてもその幻影を追ってしまうのかも知れませんが、結局最もジブリっぽくない「透明人間」が一番(というか唯一)面白いというのは皮肉なものです。
しかし一本の長編を作らず3人の監督のオムニバスにしたのは、作品の幅を狭めず観客の反応を見たいという意図もあったはずで、その試みは成功したとも言えます。
今回のオムニバスでは、ショートムービーでエンターテイメントとして成立させる構成力や映像的にも山下明彦監督の「透明人間」が一人勝ち状態と言っていいでしょう。タッチも劇画調でキッズ・ファミリー向けでもないですが、次に長編やるならぜひこの方向でお願いしたいですね。
スタジオポノックがカニカマ専門店ではなくカニ専門店として観客を楽しませてくれるようになることを期待したいと思います。