★★★★★★★☆☆☆ 7/10
アクションも素晴らしく、前作同様いかにもディズニー的なファミリー映画として楽しめます。
一方でそのこと自体に対する内省も含めてクリエイターの葛藤が垣間見え、いまいち煮え切らない後味を残してしまうところも。
スーパーヒーローは違法のまま
『インクレディブルファミリー』のストーリーはまさに前作の『Mr. インクレディブル』のラストシーンから始まります。
前作ではヒーローの活動による経済的・人的被害が問題視され、バッシングの気運が高まってスーパーヒーローの活動が禁止されましたが、前作での活躍にもかかわらずこの世界観はそのままです。
「政治家たちはただ正義をなす存在を理解できない」などという辛辣なセリフも。インクレディブル 一家はヒーローの復権を目指して活動を始めるわけですが、悪法だからと言って正義のために法を破ることは許されるのかという問いも出てきて、アメリカの現状を考えるとなかなか笑えないですね。
今回はイラスティガールが大活躍
そんなスーパーヒーローには肩身の狭い世の中で、過去の活動による経済的損失が少ないという世知辛い理由で今回はイラスティガール(ファミリーの妻にして母)がメインで活動することに。
イラスティガールは日本の某国民的漫画の主人公のように全身をゴムのように伸び縮みさせることのできる能力を持っており、そのギミックを生かしたアクションの数々は爽快の一言。
もしそういう能力があればこんなことができるだろうというアイディアや工夫が随所に凝らされています。設定はファンタジーですがその動きはリアルで、なるべく現実の物理法則に従った動きを目指しているように感じます。
こういうスーパーヒーローものでは宇宙の法則が乱れまくっている演出も見られて興ざめすることもありますが、こうした細かいこだわりも評価できますね。
一方で夫にして父のMr. インクレディブルは今回はお家で慣れない子守をすることに。アメリカも日本もそういう世情なんでしょうか。
奇しくも同時公開中の「未来のミライ」でも同じような設定ですが、本作では子育ての大変さを描きつつもそれを強調し過ぎない、エンターテイメントとしてギリギリのバランスをうまく保っています。制作費も違うでしょうが、流石に脚本の練られ方が違うなあという印象です。
ジャック・ジャック vs アライさん
前作ではほとんど出番が無かったジャック・ジャック(末っ子の赤ちゃん)ですが、本格的に能力が発動。
中でも家の庭のゴミ箱を漁りにきたアライグマとの対決シーンがあるんですが、このシーンが動きも凄いしコミカルだし、作中でも白眉のシーンだと思います。日本の怪獣映画のようなカメラワークの場面もあり、色々と楽しませてくれますね。
というかアライグマの戦闘力高過ぎ。
悪役は監督自身の投影?
さて本作の悪役として登場するスクリーンスレイバーですが、手段はともかく目的は「スーパーヒーローをスクリーンで見ることに満足し、自分の人生を生きようとしない人々の目を覚ますこと」という至極真っ当なもの。
特にスマートフォンが普及し、ともすれば1日のほとんどをその小さなスクリーンを見ることに費やしている「スクリーンの奴隷」である現代人への批判とも言えるでしょう。
一方でこの映画自体がまさにスーパーヒーローの活躍をスクリーンに映し出すものであるという大いなる自己矛盾を抱えることになります。
作中では「自分の信念に従って良いものを作る事」と「ビジネスとして人々の欲しがるものを売る事」のギャップと葛藤に言及するシーンがあり、なんだかもうディズニー映画の監督としての心情の吐露にしか聞こえない。
前作が比較的単純な勧善懲悪モノであったのに対し、本作では現代社会への風刺や自己批判的なテーマがチラつくもののその解決は図られず、最後はスーパーヒーローの大活躍による大団円でめでたしめでたし。結局ディズニーの甘くて白いクリームで覆い隠された格好で、観ている方としてはイマイチ腑に落ちない後味が残ってしまいます。
それを一番感じているのは監督自身なのかも知れませんが。