劇場版『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』レビュー

劇場版『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』レビュー

「オルタナ」に関してはストーリーの出来がだいぶよろしく無く、オリジナルのフリクリを知っていてもいなくても、楽しめる人は少ないでしょう。

「プログレ」はオルタナのように途中で席を立とうかと思うほどでは無く、作画的な見所も有りましたが、「フリクリ」がもっとも避けていたはずの凡庸さを感じる部分が多かったのは残念です。

オルタナは alternative たり得ていないし、プログレは regressive に感じる、〝特別なことなんてない〟続編で終わってしまったように思います。

フリクリ

もともと『フリクリ』は2000年に制作されたOVAで、監督は新旧「エヴァンゲリオン」で庵野秀明総監督の片腕を務めている鶴巻和哉。

そのポップな演出、摩訶不思議な世界観、ブッ飛んだ作画は強烈で、鶴巻監督ここにアリという印象をアニメファンに植え付けた作品です。あとニナモが超絶かわいい。

あれから約20年、『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』の製作が発表されました。総監督は「踊る大捜査線」や「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズで知られる本広克行(今はProduction I.G所属なんですね)。鶴巻氏はスーパーバイザーとしてクレジットされていますが、直接的には制作に関わってないようです。

ビッグタイトルだけに、新世代の表現を見せられるのか、あるいは看板を削っただけに終わるのか注目なわけですが、残念ながら後者に終わってしまったようです。

オリジナルの『フリクリ』は現在Amazonプライム・ビデオでも配信中なので、未見や見直したいという方は是非。

オルタナ

★★★★☆☆☆☆☆☆ 4/10

『オルタナ』の監督は上村泰。『幼女戦記』や『パンチライン』を手がけていますね。

オリジナルと同じく6話構成となっており、主人公を含む女子高生4人グループのそれぞれの成長を描いた群像劇といった所です。

変なツノが生えたり、ハル子が登場したり、設定としてはオリジナルと世界線は同じであるものの、場所や時間は全く別という感じ。多少言及はありますが、オリジナル未見でも問題なく鑑賞できると思います。

ただ問題はストーリーですね。4人の女子高生それぞれの成長物語をオムニバス的につなげた構成ですが、それぞれの話がテンプレをなぞっただけの様なありがちなもので引き込まれる要素がありません。

特に主人公の小学生の時からの親友であるペッツに関しては、重要な役どころにも関わらずキャラクターの深掘りらしいものが全くなく、その言動になんの説得力もないまま終わってしまった印象です。佐々木の話を削ってでもやるべきだったのでは。

成長物語に腰を据えるのであれば脚本はもっと練るべきだと思いますが、正直よくこれで通ったなというレベルで、そこに「フリクリ」的な奇妙な世界観がくっついているため、オリジナルを知っていても「なんだコレ。」感は否めません。

脚本で言えばラストも唐突というかロクな説明もなく、一応解釈できなくもないですが、含みを持たせる所でもないと思うのでもう少し説明がないと「え?これで終わり?」となったまま終わってしまい、なんのカタルシスも生じません。

そういうわけでストーリー的には全く見るべきところがないと言っていいですが、作画に関しては一応Production I.Gの面目を保っているレベルかと思います。

しかしわざわざ「フリクリ」の名を冠してこれか…という感想は避け難いところ。特にオリジナルの名シーンを彷彿とさせる様なカットもあって、ファンサービスなのかもしれませんが、やはりアレは越えられなかったかと思わせるだけで逆効果かも知れません。本歌取りをするならやはりオリジナルを超えるものを見せて欲しいところです。あ、でもペッツのタンバリンのシーンは良かったです。

全体的に、設定のみ「フリクリ」を借りているものの、ファンが望む様ならしさに乏しく、ストーリーもお粗末さが目立つため初見の人も楽しめないという残念な結果に終わっていると思います。

プログレ

★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

こちらの設定はよりオリジナルに近く、同じクラスの中学生の男女を中心にハル子がカチ込んでくる感じ。「オルタナ」よりは健闘していると感じる部分は多いですが、「フリクリ」の名を冠していなければどれだけの人が話題にするかは疑問です。

主人公のヒドミちゃんは中二病真っ盛りな感じで、特に夢の中でのその痛々しい描写はなかなか良いです。一方で相手役の井出くんは脳筋というかごく普通の中学生男子で影が薄く、ただの狂言回しに終わってしまっているのは残念ですね。

本作ではハル子のキャラクターに工夫を持たせているので、ヒドミとハル子にフォーカスする事で十分という判断かもしれませんが、この二人に関するストーリー展開は、その表現はともかくプロットはごくありきたりに感じます。

オリジナルではナオ太とマミ美とニナモのドス黒い感情が三すくみでくんずほぐれつしているあたりが大変不健全で良かったんですが、本作ではみんなお行儀がよく、中二病が痛いと言ってもヒドミの夢の中だけ。実際に放火したり投票結果を改竄したりという、現実世界を破壊してでもという少年少女の止むに止まれぬ衝動こそがフラット化する世界に対するフリクリの力の本質だと思うので、それが描かれていないのは物足りないです。

そういう意味では唯一アイコが健闘していた感じでしょうか。それにしてもともよ様はこういう役がほんとにハマりますね。

さて、作画の方は「オルタナ」に比べて大分見せ場が多かった印象です。久々に良い板野サーカスを見たと思うし、中でも5話はフルデジタルという事で異彩を放っていて、特にタバコの煙のエフェクトがカッコ良かった。フルデジタルはアニメの未来には不可避だと思うので、その一端を垣間見れたのは収穫だと思います。

ただ、作品を見た時の印象って平均点ではなくピーク値だと思うんですよね。フリクリは演出が多彩なこともあってそのピーキーさも魅力の一つで、特に決まった時のその一コマ一コマの構図から動き・エフェクトに至るまで、尋常でないカッコ良さが強烈で、だからこそこの続編が出来るだけのファンを生んだんだと思います。

まあ思い出補正もあるとは思いますが、悪くはないけどオリジナルに比べると…と感じてしまうのは、やっぱりこのピーク値の高さとその数からくるものでしょう。

無茶できるタイトルだと思うし、折角6人も監督を立てたのならもっと各話に特色を出したり、コケるにしても自分のバットを思い切り振り切って欲しかったなと感じます。

まとめ

オリジナルのフリクリもストーリーが訳わかんないところや、この野球回いる?といった感じで、完成度がすごい高い作品という訳でもないと思うんです。でも、作り手の目にモノ見せてくれるわ!という野心や、フツーであることへの強い嫌悪がそのバカテクと結びついた、まさに fool で cool な作品だったと思います。

パート2に名作無しとよく言いますが、やはりシリーズもので一番失われてしまうのはそうした野心や反骨精神であって、結果としてはフリクリのような作品には一番向いていない企画だった、と思わずにはいられません。

まあそれは最初から分かっていたことで、比較されることも承知の上でしょうから、やるからにはその予想を裏切って欲しかったところですが。

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