とにかく映像表現が圧倒的で、それだけで見る価値あり。海を舞台とした独特の世界観にも引き込まれます。ただ盛りすぎた感のあるクライマックスシーンがこの映画をより良いものにしているかは疑問です。
作品について
原作は五十嵐大介による漫画。学校でも家庭でも上手くいかない少女が、ジュゴンに育てられたという奇妙な兄弟と出会い、海で起きる不思議な現象に立ち会うことになります。
監督は『恋は雨上がりのように』や『宇宙兄弟 』を手がけた渡辺歩。制作はSTUDIO 4℃で、去年の「ムタフカズ」は内容こそしょーもないチンピラ映画でしたが作画は良さには定評があり、本作ではその実力が遺憾なく発揮されていて、まさに水を得た魚のようです。
圧倒的な映像表現
何と言っても舞台となる海の映像表現が素晴らしく、圧倒されます。クジラの巨大感や、光るジンベイザメのエフェクト、イワシの群れの複雑な動きなども自然で非常に見応えがあります。波の表現もアニメでは難しいところですが、どのシーンのクオリティが高いですね。CGも結構使われているとは思いますが判別が難しいほど美しく溶け合っています。
人物の作画も、イルカのように泳ぐ少年や華奢な体で飛び回る主人公の躍動感のある動きから、ちょっとした仕草まで丁寧に描かれており素晴らしいです。
原作の独特の雰囲気もよく出ていて、映像表現という意味では近年のアニメ映画の中でも屈指の出来だと思います。それだけを目当てに映画館に行っても損をしたとは感じないのではないでしょうか。
生命誕生の物語とは言うものの
学校ではトラブルメイカーと言われ、母親とも上手くいかない主人公の琉花は、次第に現実離れした海の世界にのめり込んでいくようになります。
原作の独特のタッチや世界観はアニメでもよく表現されており、徐々に核心に迫っていくミステリアスな展開は映像の美しさもあってかなり引き込まれるものです。
ただ2時間の映画としてストーリーは原作のダイジェスト版になっており、この脚本だとなぜこの主人公の身にそれが起きるのかという必然性も希薄だし、また少女の成長譚というコンテクストになっているので無闇に壮大な宇宙観がご開陳されるクライマックスが物語の流れとしても唐突で場違いに感じられてしまいます。
また映画的演出とは言えそれを不必要なまでに盛り上げたのが得策だったかは疑問が残ります。見ていてポカーンとなるというか、風呂敷を広げすぎて独り善がり感が悪化しているような。あと映像で世界観は十分に語られているので、やたらポエミーな長ゼリフはもっと少なくてもよかったんじゃなかろうか。
とは言え作品の世界観としては一貫したものがあり、その価値観を受け入れられるかは別として、映像自体は素晴らしいので許容範囲内だとは思います。むしろ別居状態という家庭環境を全く表現していない父親の演技の方がよほど作品の傷になっているように感じました。
まとめ
脚本上いくつか気になる点はあるものの、原作の持つ世界観の再現を含めこの映画の価値はその優れた映像表現にあり、他の作品に無い独自の魅力を放っています。オススメ。