映画『あした世界が終わるとしても』レヴュー

映画『あした世界が終わるとしても』レヴュー

★★★★☆☆☆☆☆☆ 4/10

一応パラレルワールドをベースにしたSFと言っていいと思いますが、設定が盛りすぎの上に超展開の連続で全くまとまっておらず当然にように中身がないという、なんと言うかもう清々しいB級っぷりです。

あした世界が終わるとしたら、別の映画を見ることをお勧めします。

トンデモに次ぐトンデモ展開

大まかな設定としては、

  • 現代の日本と対になる並行世界が存在する
  • こちらの世界とあちらの世界の人々の命はリンクしており、一方が死ぬと他方も死ぬ
  • あちらの世界では独裁国家が支配しており、政権打倒のため独裁者の対を排除しようと暗殺者がこちらの世界にやってくる

というもの。こう書くと面白そうだな。おかしいな。

まず構成の問題として感じるのは、序盤の結構長い時間がこちらの世界で幼馴染の男女がウダウダするありがちな展開に費やされた挙句、唐突に別のアニメでも始まったかと思うほど様子の異なるあちらの世界が描写され、何についての話なのか全く分からず世界観を見せる導入というものが存在しません。

また2つの世界は同じ時点から枝分かれしたとは到底思えないほどかけ離れており、実は並行世界なんですと言われたところでナルホドと納得できる要素が皆無です。並行世界としては、同じように見えるけれども何かが決定的に異なる世界を描いた方が、こういう世界もありえたのかもしれないという説得力が生じるように思います。

ついでに言うと並行世界の説明が「ヤッターマン」の説明しよう!ばりのノリでされるので、これはもしかしてギャグアニメなのかという疑念も払拭できないところ。いや、実際ギャグアニメだったのかもしれない。

並行世界が登場してからの展開はご都合主義と超展開のオンパレードというか、この世界観だからこういう展開になるというような一貫性はなく、何かのアニメで見たようなシーンの闇鍋状態。ツッコミどころの宝石箱と言った有様なので、いちいちあげるのはやめておきます。

ただラストについてだけ言っておくと、この作品のメッセージを額面通りに受け取るなら、限りある命なのだから今日という日を後悔のないように生きよう、というものだと想像されますが、それを全否定するかのようなシーンが最後に当たり前のように挿入され、もはや意図的なのか何も考えていないのか訳がわからないよ。

いっそコメディで

それはギャグで言ってるのか、みたいな箇所が頻発する本作ですが、実際のところたまに挿入されるコメディパートは(この作品に必要なのかはさておき)ヒロイン役の内田真礼がコメディエンヌとしても高い才能を発揮していることもあって独特の味が出ており、個人的にはほぼ唯一評価できるところです。

脚本として櫻木優平監督自身がクレジットされていますが、物語の構成や展開の整合性といったものに関心があるようには感じ取れませんし、前作の「イングレス」に続いてSFですが科学考証に興味があるようにも思えません。

むしろ日常系のゆるいコメディで女の子を可愛さを追求するという方向性の方が向いているのではないかと感じました。

映像について

監督はCGアニメーター出身であり、この作品もいわゆるフルCGアニメです。特に女の子の描写は気合の入れようが伝わってきますね。視線の動きなど表情の作り方も細かいです。

アクションシーンについても、既視感が強いとは言え劇場版アニメとして求められるレベルに十分達していると思います。このストーリーの映像にこれだけの予算を掛けたのかと言う思いがふと頭をよぎってしまいますが。

一方で普通に歩くシーンなどで動きや重心の位置に違和感を覚えるシーンもあり、CGアニメも一般的になってきたとは言えまだまだ進化の余地はありそうです。

まとめ

恋愛要素で女の子を可愛く描きたい、ギャグも入れたいSF設定も入れたい、ロボットでアクションシーンもやりたいと欲をかいて詰め込んでいたら、どこかで見たようなシーンがツギハギされただけの整合性の全くない化け物が誕生してしまった、というのが全体的な印象です。

狙い通りの結果なのかはともかく、B級映画としてはこの上ないネタを提供してくれているのは確かだと思います。