劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』レビュー

劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』レビュー

★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10

ヒロインが死んじゃう系の小説が売れたのでキレイ目の絵でアニメ化しました、という典型的な作品と感じます。

そういう目的の作品としてはソツなくまとめていると言えなくもないですが、キャラ設定やプロットの不自然さは隠しようもなく、演出や映像的にも見るべき所は特に無かったです。

ストーリーについて

住野よるによる原作小説も売れて実写映画化もされ、後発のこのアニメはこういう話が好きな人向けでしょうから、いちいち批判的な事を書いてもしょうがない気がするので、ストーリーに関しては一番不満な点だけ挙げておきます。

そもそも人との関わりを避けてきた主人公が他者との交流を通じて成長する、という本作程度の話であればわざわざヒロインが死ななくても十分に描き得るはずで、物語としてヒロインが死ななければならなかった必然性が感じられず、お涙頂戴と言われても仕方のない所でしょう。

若者の成長譚に死の表現は避けられないものです。それは必然的に、子供である自分が死に大人として生まれ変わる、象徴としての死と再生の物語だからです。

しかし本作では、主人公はヒロインの死に匹敵する代償を払っている訳でもなく、ヒロインは自らの死に値する対価を得ていない、少なくともその説得力のある描写ができておらず、言ってみれば主人公にとってのみ都合のいい話で終わってしまっています。この物語構造上の非対称性がこの作品の最大の欠陥だと思います。

象徴としての死と再生という構造を上手く使ったアニメ映画としては細田守監督の『時をかける少女』がやはり記憶に残ります。真琴の爪の垢を煎じて飲ませたい。

映像について

小説のイラストはloundraw氏という事で、あまりアニメアニメしない爽やかなキャラクターデザインはこういう作品を好む層にも受け入れやすいのではないでしょうか(適当)。

美術的にも図書館や桜、海のシーンはなかなか頑張っている印象。

ただ作画的には、フツーすぎるというか劇場アニメとしてはもうちょっと見せ場が欲しかったですかね。内容は別として、映像的には今年の夏アニメとしては『未来のミライ』や『ペンギン・ハイウェイ』の方が見所がありました。

『星の王子さま』というキーアイテムを生かしたシーンもありましたが、アニメーション的にはもう少し工夫が欲しかったように感じます。

一番良かったと思うのは花火のシーンです。花火の最中を飛ぶカメラから撮ったような映像でスペクタクル。実際にドローンで撮った映像もありますが(コレとか)最近は規制も厳しくてもう撮れない気もするし、CGによる花火表現は今後も期待したいです。

まとめ

いかにも釣りタイトルっぽいのでこちらもつい身構えてしまうわけですが、内容としては想像通りといったところ。

アニメも3匹目のドジョウと言ったところで、こういう短命なヒロインの悲恋的な話は昔から需要があるのは理解できるものの、本作が数多あるそういう作品の中で特に秀でているようには感じられません。