映画『未来のミライ』レビュー

映画『未来のミライ』レビュー

★★★★★★★☆☆☆ 7/10

細田守監督の最新作『未来のミライ』が公開されたので観てきました。

家族をテーマにした作品で、夏休みのファミリー映画としてはまずまずの出来だと思いますが、マンネリ化もあって特筆するような所もなく、細田作品としては未来に不安を残しているように感じます。

家族が家族になる物語

主人公は4歳の男の子で、妹のミライちゃんが産まれるところから物語は始まります。今まで両親の愛を一身に受けていたところへ、妹がその地位に取って代わってしまい、妹を好きになれないくんちゃん。

血が繋がっているから「兄妹」になれる訳でも、子供が出来たから「親子」になれる訳でもない、一緒に過ごす長い時間によって「家族」になっていくという過程を描いた作品と言えます。

まあこう書いてしまうとありがちな話で、この作品の主眼としてはこの「家族が家族になる」過程を如何にアニメーションの力で表現するかということにあると思います。

その舞台装置が4歳のくんちゃんが時間を超えて過去や未来の家族たちと会うという仕掛けで、タイムリープ再びというところでしょうか。

時空を超えた未来や過去の家族との触れ合いや心象表現などアニメーションならではの描写によって、連綿とした繋がりや家族になるということはどういうことなのかを圧縮して見せるという発想や演出は細田作品らしい見所だと思います。

舞台装置について

ただこの仕掛けが曲者で、唐突に理由なく始まるので分かりにくいですし、時間を超えているという描写と4歳児の妄想らしき描写が混淆としており、観ている方としてはよく分からないままいまいち物語に没入できず、作品の穴となってしまっている感があります。

一応作中で庭の木が家族の系統樹になっていて〜などという言及がありますが、もう少しうまい仕組みと説明がないと作り手の都合だけが見えてしまい、きっちり物語をドライブできていない印象を受けます。

「ファンタジーなんで」と言われてしまえばそれまでですが、細田作品はこうした脚本のロジカルな裏打ちが杜撰な傾向があって、物語の主軸ではない事は分かっていても細かい点が気になって作品の評価が下がりがちなところがこの作品でも出てしまっていて残念ですね。

とは言え論理的な説明はともかく、演出の方はさすがと思うところも多いです。例えば町並みを俯瞰するカットが多用されますが、これによって人や家屋は時間によって変わってしまっても大まかな地形は昔も今も同じで、それが家族の繋がりを表現するのに一役買っています。ツバメを利用したちょっとした伏線も気が利いていますね。

また細田作品ではお馴染みの謎空間も系統樹バージョンとして登場。確かに見ていると気持ちはいいんですがこれはやらないと気が済まないんでしょうかね。まあお約束という事で。

「未来のホソダ」は何処へ

ストーリーだけを追うとよくある話を繋げただけな感もありますが、演出によってそれなりの作品に仕上げているところはさすがと言うか評価できると思います。

とは言え、タイムリープらしき設定の復活やポスターのビジュアルなど、過去の栄光である「時かけ」への回帰も感じ、細田作品としてはあまり未来への希望を感じさせる作品ではありませんでした。

テーマ的にも同じような作品が続いていますし、本人がどう思っているのかは知りませんがポストジブリのような扱いも受け、このまま似たような夏休みのファミリー映画を再生産していくだけでは少しさみしい気がします。

細田監督はもともとズバ抜けた演出の巧みさで名を馳せた人ですし、正直脚本家としてはその引き出しも含めて不安を拭い去れないところがあるので、個人的には物語性のしっかりした原作を選んだアニメ化を観てみたいですね。

えげつないタイミングで特報を入れてくる某監督も「君達も好きにしたまえ」とか言ってましたし、細田監督ももっと自由にやった作品を作ればいいのになと感じないではないです。