早いもので21世紀が未来ではなく現在になってから約20年も経ってしまいました。
漫画やアニメには未来を予言する、形作っていく力を持った作品が多くありますが、ここでは21世紀に誕生した比較的新しいSFアニメの中から、近い将来に現実となるかも知れない世界を描いた作品を取り上げてみました。
そこに描かれる未来は実現するのか、人類に待つのはユートピアかディストピアか、そんなことを考えながらアニメを楽しむ参考になればと思います。
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(2002)
原作の設定は引き継ぎつつも、「笑い男事件」シリーズを主軸としたオリジナルストーリーとなっています。
本作ではネットを媒体とした「個と集団」の関係がテーマの一つとなっており、匿名の個人が大組織の不正を暴くというプロットはのちのWikiLeaksの登場を彷彿とさせるところもあります。
しかし、インターネットの発達によって個と集団の関係性が大きく変わってしまったというのは、TwitterなどのSNSが大きな役割を果たしたと言われる「アラブの春」や、最適化されすぎたアルゴリズムによるフィルターバブル問題など、作中よりも現実の方がそれを劇的に示したと言えるかも知れません。
タチコマにおける人工知能の急速な進化の描写は、現実ではまさに現在進行中といった感じですね。今見ると賢いSiriさんといった感じ。
一方で義体や電脳という技術はその萌芽が見られるものの、まだまだ未来の技術といえそうです。
今見返しても示唆に富んでおり古びた感じはしませんが、当時は最先端だったであろうフルCGで作られたOPが最も時代を感じさせるというのは皮肉なものです。
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プラネテス(2003)
宇宙空間のデブリを処理する危険な重労働を生業とする人々を描いた、言わば「未来のブラック企業」を舞台とした作品。
宇宙開発が盛んになるにつれてデブリはますます大きな問題となっており、2013年には実際にデブリ除去を目的とした世界初の民間企業であるアストロスケールが起業されました。もはやScience FictionではなくScience Factですね。さすがに人力で作業はしないようですが。
いかにもありそうな未来を描きつつも、登場人物たちは仕事のやりがいや人生の意義といった、いつの時代も変わらない悩みを抱えて生きています。未来を舞台にする事でむしろ人生の普遍的な問いを浮き彫りにしている作品と言えるかも知れません。
ちなみにタイトルのプラネテス(ΠΛΑΝΗΤΕΣ)はギリシア語で「惑う者」という意味。英語のプラネット(planet、惑星)の語源ですね。太陽系以外の星は地球から見ると天球上を規則的に回転しているように見えますが、太陽系の惑星はそれぞれ公転しているため地球から見ると不規則な動きをするのでこう呼ばれました。
どれだけ科学技術が発達しても解決されないであろう、人間の惑いを描いた作品です。
電脳コイル(2007)
現実世界に様々な情報をオーバーレイできる「電脳メガネ」がキーアイテムな作品。今でこそ「あーARね」となりますが、公開されたのはGoogle Glassが発表される2012年の5年前、続いてMicrosoft HoloLensやMagic Leapも登場します。また電脳ペットで遊ぶ登場人物たちはポケモンGoに興じる人々を想起させるなど、近未来を予言したという意味では筆頭に挙げられる作品です。
サイバーパンクな電脳世界を子供の都市伝説と結びつけるという、その手があったか!という世界設定が秀逸です。攻殻機動隊とドラえもんを掛けてルートをとったような感じ。
電脳世界は言わば何でもありなのでアニメ向きの設定と言えますが、前半ではそれを生かして小学校を舞台にしたハッキング戦から「のび太の恐竜」的な感動エピソードまで、多彩なストーリーとイマジネーションあふれる作画で楽しめます。
後半は一転シリアス展開に。データの不整合や意図的な改変によって生じる問題、現実と仮想が不可分となった世界で感じる「リアリティ」とは一体何なのかというテーマを描き、これぞSFアニメという醍醐味を味わうことができます。
その後のスマートグラスやARの勃興を予言するなど、ビジョナリーという面でもすごいですが、設定のオリジナリティや鬼のような作画、先の読めないストーリーと、ジャンルを問わず2000年代を代表する名作アニメだと思います。
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PSYCHO-PASS サイコパス(2012)
犯罪を犯す可能性がある人物を監視カメラなどで未然に検出するという技術は実際に研究が進められており、最近では実用化されたシステムがメディアで紹介されたりしています。そうした技術が高度に発達した世界を描いた、言わば思考実験的なサイコスリラーです。
脚本は『魔法少女まどか☆マギカ』などを手がけた虚淵玄。世界観やストーリーに持ち前のあざとさ、えげつなさが遺憾無く発揮されています。実現可能かもしれないという点ではマミったどころの話ではないですね。
仮に犯罪を未然に防ぐことができればそれは社会にとって大きなメリットがありますが、実際に犯していない罪を裁くことが出来るのか?人間の理解を超えたシステムに人の生死を委ねてしまって良いのか?という問いかけは、ますます現実味を帯びて来ていると言えるでしょう。
たとえば車の自動運転の実用化はすぐそこまで来ていますが、有名なトロッコ問題に代表されるように、ついにAIに倫理を求めざるを得ない時代が到来しています。
人間を超えた知性が人間を支配するという世界はユートピアなのかディストピアなのか。民主主義によって選ばれた人々がその集団の中の優れた人々というよりはむしろ平均的な人々というのは、人類が長年の歴史で培った知恵なのか、それとも単なる愚かさの表れなのか。その答えを知る日は近いのかもしれません。
プラスティック・メモリーズ(2015)
いわゆるアンドロイドもの。ロボティクスやAIが急速に発達してきた近年ではもはや定番といえるジャンルになりましたね。
人と全く区別がつかないアンドロイドですが、81,920時間という寿命があり、寿命が来る前に回収する必要があるという設定。しかし寿命があるという意味では人間も同じであり、あらかじめ終わりの時間が分かっているという以外は人間と変わらないとも言えます。
かつての人型ロボットアニメは「鉄腕アトム」や「ドラえもん」(厳密にはネコ型ですが)など、ファンタジーの要素が強かったように思いますが、テクノロジーが現実味を帯びてきた現在では、人間と区別がつかない存在に対して人はどう接するべきなのか、そもそも人間を人間たらしめているものは何なのか、といった深い問いを発するものが多くなったように思います。
ちょっと切ないラブコメという体裁をとっており気軽に楽しめる作品ですが、愛する者の喪失とどう向き合うのかという普遍的なテーマを扱っており、その対象が人間ではないということも含めて色々と考えさせられます。
それにしてもアンドロイドに恋をしてしまう主人公は、ひょっとすると2次元に恋をしている我々の姿そのものなのかも知れません。
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