2010年代 アニメベスト10

2010年代 アニメベスト10

2010年代も終わりというわけで、この10年のベストアニメを独断と偏見で10作品選んでみました。さすがに10年で10本となると甲乙付け難いところもあるので、ランキング形式ではなく年代順にしています。

探偵オペラ ミルキィホームズ (2010-2012)

森脇真琴監督×ふでやすかずゆき脚本という罪深いコンビが爆誕してしまった作品。森脇監督は日曜朝のマイメロの時からだいぶアレな内容でしたが、深夜のオリジナルアニメということもあってか水を得た魚のごとくその能力を遺憾なく発揮してしまう事に。

いかにも萌えアニメっぽいキャラデザとは裏腹に、内容はナマコとかラードとかアナルプラグとかとにかくひどい。次第に探偵活動もしなくなり、一体探偵オペラとは何だったのか。やりたい放題ギャグに全振りした作品として強烈に印象に残る作品となりました。

やっぱりやり過ぎだったのか、シリーズは続くもののここで挙げる第1〜2幕以降は監督も代わって穏当な内容になってしまったのは残念ですが、逆に伝説を残したとも言えます。

2010年代はアイドルアニメが隆盛を極めましたが、ミルキィホームズは中の人がキャラクターとしてアイドルグループ活動をする最初期の成功例でもあり、そういう意味でもその後に与えた影響が意外に大きい作品だと思います。

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輪るピングドラム (2011)

『少女革命ウテナ』から実に14年ぶりとなる幾原邦彦監督のオリジナルアニメ。「生存戦略!」の叫びと共に唐突に始まる変身バンクならぬ脱衣バンクのエキセントリックなイメージの奔流は、ズバ抜けた映像感覚の健在っぷりを見せつけます。

コメディとシリアスが絶妙に縒り合わされたストーリーテリングも非常に巧みで、最初は体の弱い妹とサイコな女子高生に振り回される兄弟というコメディ色が強めですが、次第にこれは少年少女がその過酷な運命を生き抜くための「生存戦略」の物語であることに気づかされます。

人はある日自分が自分であることに、それも自分の意思とは無関係にそうであることに気づきます。カフカはこれを突然虫に変身すると表現しましたが、この作品では地下鉄サリン事件を思わせる出来事の下に生まれてきた子供たちの、自分ではどうすることも出来ない運命として描かれます。

突き抜けたギャグとカフカ的不条理、演劇的ケレン味溢れる演出が渾然となって繰り広げられるイクニワールドはまさに唯一無二であり、この世界はアニメーションでなければ表現不可能と感じさせます。

同じく幾原監督の『ユリ熊嵐』もすごい百合ですごいクマなのでおすすめ。

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惡の華 (2013)

押見修造のマンガが原作。監督は『蟲師』の長濱博史。

同じクラスの女子の体操服を盗むことから発展するいかにもエロ漫画的な滑稽さと、思春期の鬱屈した内面を鋭く抉り出したシリアスさが同居する特異な作品。

思春期というのは、過ぎてみれば何故あんなことに真剣に悩んだのかと笑い話にもできますが、当の本人にとってはまさに生死を分ける問題でありそれが世界の全てだったのです。この本来相反する視点が奇妙な形で共存しているのが最大の特徴と言えると思います。

これを原作のマンガ絵のままアニメ化してしまうと内面のリアルさを表現できない可能性があり、かと言って実写でやってしまうとイタ過ぎて見ていられないものになるでしょう。(と思ったら実写映画化されてましたが…)

したがって実写で撮影してそれを秒8コマのロトスコープアニメに落とし込むという無謀とも思える手法が、この作品の二面性を表現するのに最適な形式であるというのがおそらく監督の判断であり、それが恐ろしいほどに成功しています。

長濱監督は『蟲師』でも原作の独特の雰囲気を見事にアニメーションに落とし込んでいましたが、『惡の華』は原作の本質を原作以上に表現してしまったと言えます。この完成度は天才の所業と言わざるを得ません。

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ピンポン (2014)

少し泣く。

原作の独特の絵柄を完璧にアニメーションとして再現した湯浅政明監督による映像も驚異的ですが、ストーリーも負けず劣らず素晴らしい。

スポーツを題材にした作品は、少年誌でよくあるいわゆる「友情・努力・勝利」のテンプレに従ったものが多いですが、『ピンポン』はそれに対し明確なアンチテーゼを提示することで、そうしたスポ根では永遠に到達し得ない世界を描くことに成功しています。

才能と努力はどちらが勝つのかという古くからの命題に対し、作者の冷酷なほどリアリスティックな目線によってストーリーは展開していきます。卓球は個人競技であり、一人の勝者以外は全て敗者です。しかし不思議とそこに絶望感はありません。と言って希望とはまた違う、名状し難い感情を呼び起こされます。

持てる者の苦悩も持たざる者の苦悩も描いているからとか、勝敗を超えた喜びを描いているからとか色々と言葉には出来ますが、この作品の魅力はそうした言葉を超えた、物語によってのみ表現できるもののように感じます。それはこの作品が、人生そのものを描こうとしたファンタジーだからなのかもしれません。

湯浅監督は原作付きのアニメ化だと異常に能力を発揮し、『四畳半神話大系』や『DEVILMAN craybaby』もよかったですが、一つ選ぶならこれ。年明けの『映像研には手を出すな』も期待してます。

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監獄学園(プリズンスクール) (2015)

元々女子校だった高校が共学になり、初の男子生徒として入学した5人と生徒会の面々が繰り広げる熾烈な闘争を描きます。いやー乱世乱世。

当然不純な動機で入学したモテない男子高校生の行き場のないリビドーを、高純度なギャグとして錬成してしまった作品。下ネタ多めですがとにかく笑えます。

キャスト陣による熱演も素晴らしく、特に花役の花澤さんの十八番とも言えるキレ芸が存分に堪能できるのも魅力のひとつでしょう。監督分かってるなー。

2014年の『SHIROBAKO』に続いて本作と、水島努監督と横手美智子脚本コンビの絶頂期の作品でもあります。水島監督はガルパンばっかりやってないで早くこういう作品にも戻ってきて欲しいものです。

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ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン (2015)

TRIGGERの最高傑作。古事記にもそう書かれている。

何故か4:3のアスペクト比で紙芝居のような動き、サツバツとした内容でいきなり度肝を抜かれる事必至。アイエエエエ!

基本的にはニンジャに家族を殺されたフジキドの復讐劇ですが、ストーリーはあってないようなもの。日本を誤解しているのか理解しすぎているのかもはや不明な独特の言語センスと常軌を逸した世界観が実際奥ゆかしい。

手抜きのような作画もそれ自体がギャグとして成立しており、古今のアニメ表現を熟知したTRIGGERスタッフによる、表現における内容と形式の一致の素晴らしい例と言えるでしょう。多分。

記号に支配されたマッポーの世の中にあって、アニメイシヨンの自由さと楽しさを再認識させてくれる、一輪の蓮の華めいて清々しい作品。ゴウランガ!

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NEW GAME! (2016-2017)

今日も一日がんばるぞい!

ゲーム制作会社に入社した新人社会人の青葉の奮闘を描くお仕事アニメであり、なぜか女性しかいない職場のあら^〜な日常を堪能できる作品でもあります。

特に2期では社会人2年目となった青葉の、より「お仕事」にフォーカスした内容になっており、『SHIROBAKO』と双璧をなすお仕事アニメの名作に仕上がっていると思います。

良作を連発している動画工房の作品の中でも作画や演出のクオリティが抜きん出ており、それによって描かれるゆるい日常と前向きなお仕事要素が絶妙にブレンドされた内容はあまりに心地よく、一度見だすと抜け出せない冬の朝の布団のような抗しがたい魅力に溢れています。これが沼か…

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メイドインアビス (2017)

ナナチはかわいいですね。

世界で最後に残された秘境である大穴「アビス」を少年少女が探検するというジュブナイル的なストーリーですが、内容はかなりハードなもの。この作品の鍵となるのは「そんなものじゃあこがれは止められねえんだ」のセリフにある通り、人間の飽くなき好奇心です。

人間の好奇心が生んだ功罪は多少とも歴史を学ぶと嫌というほど思い知らされますが、リコの無謀とも言える冒険心も、ボンドルドの極悪非道な行いも、元を正せば未知なるものを解明したいというヒトの度し難い好奇心から発しており、対照的に見えるこの二人は実は同じコインの裏表とも言えます。

アビスを降下して次第に明らかになっていくその過酷な世界は、徐々に露わになる人間性の深層のメタファーでもあります。美しい背景美術と丁寧な作画に支えられ、象徴的世界によって人間の本質を描くというファンタジーの利点を最大限に生かした名作です。

年明けには続編の劇場版も公開されますね。「マルルクちゃんの日常」で癒されるんだろうなー(棒)

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ヒナまつり (2018)

インテリヤクザのもとに超能力少女が突然現れるというシュールなギャグアニメ。

原作漫画の面白さもズバ抜けていますが、及川啓監督の演出によるツッコミの間やテンポ感が素晴らしく、ギャグ漫画のアニメ化としてはこれ以上望めない程の理想的な出来と言っていいと思います。

漫画は空間表現なので時間軸は存在せず、読む人の頭の中で初めて時間の流れが生じます。漫画をアニメ化するというのは時間軸をコントロールする作業でもあり、特にギャグ漫画の場合それによって作品の面白さを生かしも殺しもすることになります。

またアニメの場合、制作上のリソースの都合でこうなったんだろうなと感じてしまう事も間々あり、こうした理想的な間を実現できるのはキャストの能力とともに作画スタッフの優秀さの現れでもあります。

実際『ヒナまつり』は作画的にも素晴らしく、特に1話冒頭のマオのカットはここにそんな力入れる必要ある?というほどのクオリティで、それ自体がギャグなのかと思ってしまうほど。あまりの出来栄えゆえか最終話にも登場して天丼が構成されることに。

原作は続いているので是非2期も期待してます。

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リズと青い鳥 (2018)

ある女子高生の友人同士の、友情の陰に見え隠れする様々な感情の揺れが主題となっていますが、とにかく山田尚子監督の演出が異常なほど冴え渡っており、アニメーションにおける感情表現の一つの到達点と感じます。

青を主調とした淡い色調で統一された画面は、みぞれと希美の届きそうで届かない、触れたいけど触れられない関係を象徴するかのようです。冒頭の一連のカットでの細かい動作の描き分けによって、最初のセリフが発せられる前に2人の性格と関係性が既に暗示されます。その後も説明的と感じさせるセリフはほとんどなく、細かな仕草や表情の変化、画面構成によってその内面を完全に表現する事に成功しています。

一応TVアニメ『響け! ユーフォニアム』の続編という位置付けですが、色々な意味で別物と言っても良いでしょう。TVアニメでは、吹奏楽部員を中心とした人間関係を描きつつも基本はコンクールでの勝利を目指すという言わばスポ根的大筋がありましたが、本作ではそうした筋は陰に退き、専ら2人の関係性のみに焦点が当てられます。それを徹底した細部の描写で表現する事で、人生のある時期に特有な感情の繊細な変化をフィルムに焼き付ける事に成功した映画だと思います。