『DEVILMAN crybaby』と、テレビアニメの終わりの始まり

『DEVILMAN crybaby』と、テレビアニメの終わりの始まり

★★★★★★★★★☆ 9/10

永井豪の問題作の本質を突いた、理想的とも言えるリビルド&アニメ化を果たしています。

Netflixオリジナルアニメですが、1ヶ月は無料お試し期間があるので、その間にこれだけでも見て欲しい、見る価値のある作品だと思います。

以下若干ネタバレあり。

湯浅政明 ×『デビルマン』

湯浅政明監督といえば『四畳半神話大系』や『ピンポン』で癖のある原作をさらに癖のある演出でアニメ化し、原作の持ち味を殺すどころか生かし切るという驚異的な手腕でその名を知られる人です。

(ちなみにNetflixでは『四畳半神話大系』や『ピンポン』も見られます。)

その湯浅監督が『デビルマン』を完全アニメ化するということで、いやが上にも期待は高まっていたのですが、蓋を開けるとまたどエライのが出てきましたね。

独特な演出も健在で、デビルマンが全力疾走している時のあり得ない作画とか最高です。サバトのシーンもノリノリで、テレビ放送だと謎の光や湯気がいい仕事しちゃうシーンもそのまんま。永井豪作品はやっぱこうですよね。さすがNetflix。

原作を尊重しつつ再構成されたストーリー

ストーリーは原作をベースにしつつも、現代風にアレンジ&再構成されており、原作を見ていない人の方がすんなり入れるかも知れません。

オリジナル部分は原作をうまく補完しており、陸上部という設定でストーリーに一貫性を持たせたり、キャラ付けを厚くすることで見る人を引き込みつつ、この作品の凄惨さをより際立たせる事に成功していると思います。

ラッパーが出てきた時はどうしようかと思いましたが、ミーコとククンのくだりはすごく良かった。この作品で唯一の(そして一瞬の)救いだったかも知れません。

問題のクライマックスシーン

一方で作品の本質的な部分は原作に非常に忠実と言えます。特にクライマックスの9話は圧巻。

この作品が真に問題作である理由はエログロ描写などではなく、人間に対する希望を全く見出していないという点にあります。それをアニメでは優れた演出で描き切ってしまっています。

見ている方は、それがどうしようもくリアルに感じられてしまって刺さる。

魔女狩りやアウシュヴィッツを持ち出すまでもなく、常に「それ」は、隣ではなく、自分自身の中にいることを強烈に意識させます。

人間の暗部を描き切る

そしてラストの救いの無さ。見終わった後の虚脱感というか、暫く気持ちを持って行かれます。

正直設定がトンデモな所があったり、作品全体の完成度としては凄く高いという訳でもないんですが、そういうのはもうどうでもいいんです。

人間の暗部をここまで純粋にかつ説得力を持って描き切ってしまったところにこの作品の価値があります。

テレビアニメの終わりの始まり

さて、内容もさることながら、この作品にはもう一つの意義を感じます。

冒頭でも述べましたが、この作品はNetflixで完全独占配信されています。webアニメはこれまでにもありましたが、ショートアニメでなく1クール分のフルアニメは珍しく、テレビ放送を前提としない動画配信サービスによる独占配信は、日本のアニメとしては初めての例かもしれません。

その最初の作品に湯浅デビルマンを持ってくるあたり、Netflixの本気を感じます。今後もNetflixからはオリジナルアニメ作品が登場する予定ですし、アニメに力を入れるのはNetflixのような企業にとってはビジネス的にもメリットがあるという判断でしょう。

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神経質な自主規制や放送スケジュールのあるテレビ放送よりは制作の自由度も高そうですし、資金面でも有利ということであれば、才能のある監督やスタジオにとっては格好の活躍の場となり得ます。またよく言われるアニメーターの過酷な労働条件の軽減にもつながるかも知れません。

何にせよ多様性があるということはそれだけで価値であり、新しい環境で新しい作品が生まれれば、アニメファンとしても楽しめる作品が増える可能性が高まるということです。

『DEVILMAN crybaby』はその可能性を実際に示したという点でも重要だと思います。

テレビ放送はもはやレガシーなメディアであり、新聞やラジオと同じ道を辿りつつありますが、アニメでもこれほどの作品が登場したことで、遂にこの時が来たかという感慨を覚えますね。

2018年はテレビアニメの終わりが始まった年として記憶されるのかも知れません。

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