2021春アニメ ベスト4
1 | シャドーハウス
影と人形とカフカ的世界
ある朝目が覚めると、真黒で表情も分からない「お影様」の顔を演じる「生き人形」としての生活が始まる…という何とも奇妙な世界。
この設定は、文字通り内面的自己と外面的ペルソナとしての自己の分裂を表現しているように見えます。誰しも自分が思う私と、他人から見た私との差に悩んだ事があるかも知れませんが、他者が望む私・社会的役割としての私を演じるうちに本来の自分を失っていくという寓意を読み取るのは容易でしょう。全体像の見えない「館」の中でアイデンティティの喪失に苦しむ姿はカフカの『城』のようでさえあります。
それにしても主体であるはずの存在が影であり、ペルソナの方が本物の人間であるというのは奇異にも思えます。これは、他者というのは外面しか見えず、内面はその影のようなもので知り得ないという事のメタファーでもあるのかも知れません。二重の意味で中の人である佐倉綾音さんが「他人NPC論」を提唱していましたが、『シャドーハウス』はまさにそうした感覚を具現化しているとも言えます。
もっともそんな穿った見方をしなくても、健気なエミリコが奮闘している姿を見ているだけでほっこりできますね。そうした単純なエンタメ性と、深読みしようと思えばどこまでもできそうな設定の巧妙さとのバランスも素晴らしいです。
マジカルスパンキングや嘔吐プレイなど、時折作者の性癖が垣間見えるのもまた趣深いですね。
2 | SSSS.DYNAZENON
大人のアニメって、なに?
『SSSS.GRIDMAN』の雨宮哲監督によるシリーズ第2弾。前作とどこか繋がった世界観ですが、GRIDMANが少年少女が悪と戦うというシンプルかついかにも特撮ロボットもの的な内容だったのに対し、DYNAZENONはよりキャラクターの内面にフォーカスした人間ドラマ要素が強く出ています。
ダイナゼノンに選ばれるのは、過去の躓きから前に進めない、大人になれない人たちばかりです。それと対比するように既に「大人になった」人たちが登場し、強いコントラストとギャップが提示されます。
大人になれないのは、変形合体ロボアニメなんかを作っている人たち自身のことかも知れないし、それを見ている私たち自身のことかも知れません。そしてそんな大人になれない人々の物語の結末は、当然の事ながら怪獣もロボットもいない現実の世界で生きるために成長するということです。
少年の成長を描いた作品は多いですが、無限に見える可能性の中からありふれた一つの現実を選び取るという喪失感と、しかし確かにそこにある新たな価値をちゃんと表現できているものはあまりなく、数少ない成功例だと思います。
少なくとも異世界で無双するおじさんのアニメよりは大人のアニメと言えるでしょう。
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3 | ゾンビランドサガ リベンジ
今日は倒れた旅人たちも SAGA
第1話がゾンビランドサガにしては普通過ぎたので心配しましたが、第2話のウテナネタを見て安心しました。
それ以降は相変わらずの飛ばしっぷりで、待望のゆうぎり回もまさかの2話構成の歴史巨篇でなんか良い話になっちゃってるし、予想の斜め上を行く面白さは健在ですね。
シーズン2でアイドルとしての活躍も順調になってくると、ゾンビネタというかゾンビである事の意味も薄れてきたのはちょっと残念でしょうか。オチに持ってくるのかと思ったら全然別のとんでもないオチだった。
結局伝説の山田たえの正体は明かされないままですし、もうちょっとだけ続く…のか…?
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4 | オッドタクシー
オットセイかと思ったらセイウチだった件
うだつの上がらないタクシードライバーのおっさんが客と喋っているだけといういかにも地味な導入から、アイドルやらSNSやらガチャやらの世相を反映しつつ、次第に予想もつかない事態へと発展していきます。
一見無関係に見えるエピソードが、話が進むにつれて実は繋がっていて…という構成や、軽快かつ冗長な会話劇はタランティーノの『パルプフィクション』を彷彿とさせますね。
展開に無理を感じるところも有りますが、構成の面白さで見せるこうした作品はアニメでは珍しいですし、キャラクターが動物なのも単なる人間社会の戯画化かと思いきや、最後の回収も鮮やかです。
脚本の此元和津也氏は元々漫画家ということで、アニメやラノベ界隈と比べるとストーリーテラーの層の厚さを感じてしまいますね。ともかく、こういう野心的なオリジナルアニメ企画が成功しているのを見るとアニメもまだまだ可能性があるのかなと思わせてくれます。
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